1. HOME
  2. WORKS
  3. TOKYO RECYCLE PROJECT - STATEMENT
TOKYO RECYCLE PROJECT

TOKYO RECYCLE PROJECTは日々移り変わりる消費社会の中で都市を取り巻くさまざまな出来事、人・モノ・情報・物語などをニュートラルな状態へ戻して再生へと向かう為のプロジェクトです。

現代の大量生産・大量消費のSystemは私たちに豊かなライフスタイルを与えてくれましたが、21世紀をむかえ時がたった今もなお環境問題や様々な問題を残しています。また情報があふれる中、私たちは忙しさに追われて「なんとなく過ぎさっていく日々」をおくっているのではないでしょうか。

私は1992年からデザインパートナーのLICAと共にファッションデザイナーの仕事をはじめました。
ファッションというキラキラした世界に憧れ、そして常に新しい服と出会いたい気持ちで製作に励んでいました。新しい服に袖を通すときに生まれる、ワクワク・ドキドキといった気持ちは言葉にならないほどのエネルギーを今でも私に与えてくれます。
そんな表舞台の華やかさとはうらはらに大変忙しいのもこの世界。疲れ果てて帰宅したある日、一人部屋の中である孤独感を抱きました。仕事には満足していて何かに不自由していたのではありませんでしたが、いつも心の中はなんでもあるのに「何か足りない」そんな気持ちでいっぱいでした。ふと見渡せば部屋の中はいつもモノで溢れかえっていたのでした。クローゼットに入りきらずにあちこちに置かれた洋服、壁中に敷き詰められたオモチャや絵画、封を開けずに放置されたショッピングバックやDVD。それはまさに欲望のかたまりで、私も「なんとなく過ぎさっていく日々」をおくっていたのでした。
ある日、思いきってモノを捨てようとしたのですが、いくら捨ててもモノは減らず、さまざまなモノが残ったのです。なかでもクローゼットは手強くて、これは中学生の時、母からもらったハワイ土産のアロハシャツ、高校生の時東京に着て行ったスカジャンだとか、これは卒業して初めて行ったロンドンで買ったセディショナリーズのパンツだとか・・思い出の詰まった捨てられないモノがたくさん残ったのでした。
「捨てたくはないが、あると圧迫されてしまうモノ」どうすればいいのか考えたあげく「いっそ真っ白に塗ってしまえ」と思い、部屋中のすべてのモノを集め白く塗ったのでした。その後不思議な感覚が私の中に残りました。白い壁と同化しているせいかも知れませんが、「捨てられない思い出のモノが新しく生まれ変わり、クリアな気分でそこに存在している」 のです。忙しい溢れかえった現代社会の中で私のように気づかずに「なんとなく過ぎさっていく日々」をおくっている人がいるのではないかと思ったのです。そしてそれらをファッションというメディアを使って伝えることは出来ないかと思い、1999年、TOKYO RECYCLE PROJECTが始まりました。

このように初めはごく主観的な理由からTOKYO RECYCLE PROJECTを始めたのですが、プロジェクトを通してさまざまな洋服や人々と出会い、参加者の方々の想いやエピソードと触れるうちにあることに気づきました。
それは、服にはもう一つの素材があるということ。
目には見ることが出来ない『心の形という素材』があるということでした。
そしてそれらはその人自身となって、さまざまな状態で服の中に織り込まれていました。
2005年の秋にオーストラリアのパワーハウスミュージアムで展覧会を行なったときでした。会期中に作品を見た現地のデザイナーの女性から、プロジェクトに参加したいという依頼がきました。プロジェクトの受付は終了していたのですが、なぜか私も気になり彼女と美術館で会い、数時間話をしました。それは、

「亡き夫が身につけていたTシャツを使って何かつくって欲しい」

という依頼でした。
話によれば当時彼女はシドニーオリンピックの衣装製作のため多忙な日々を送り、長期出張をされて帰宅した時には既にご主人は亡くなられていた。 そしてその後彼女は仕事を辞め療養していたそうです。後日、私は彼女の自宅を訪問しました。彼女はシドニーから車で2時間半ほど離れた山頂部にたくさんの緑や花々に囲まれて暮らしていました。
そこで思い出のモノに触れながら、パートナーとの話や彼女自身の話など、さまざまな話をして時間を過ごしました。そして亡き夫が愛用していたという50枚のTシャツを頂いて美術館にもどったのです。
製作中、私は使い古されたTシャツを手にして「彼はこの服を着てアボリジニの人達を訪れていろんなモノを再利用していたこと」「これを彼女が手にしてどのように過ごしていたのか・・」などいろいろな想いが浮かびあがってきました。

私は「服にはそれに関わる人々の心が織り込まれていて、それが物語となるんだ」と確信しました。

他にもさまざまな方がいらっしゃいました。
NYでのプロジェクトに参加されたある60代の女性は、彼女が40年間想い続けたという男性の画家の方の絵が描かれたスカーフを持ってこられました。男性は亡くなられたので、スカーフとしてではなく何か違う形にしてほしいということでした。
あるライターの男性は、すっかり右腕の袖口あたりが擦り減りハンガーに掛けても右肘が曲がった状態というユニークなジャケットを持ってこられました。聞けば、入社当時に着ていたらしく、腱鞘炎になるぐらい毎日記事を書いていたのだそうです。当時それを着ると必ず原稿が通るという縁起モノで捨てることができずにとっておいたそうです。
他にも曾祖父母から受け継がれて使っていた膝掛けで、生まれてくる子供になにか作って欲しいなど。
形をかえて思い出を伝えていきたいケース(継承型)や、心の奥に何かをしまい込んでいるケース(浄化型)、また習慣などから服そのものに形状としてのこっているケース(記憶型)などさまざまな再生のタイプを理解したことから、このプロジェクトでいう服を再生するということは、服と人との関係性である「心の形」を再生することであると知りました。

そこで「どうしてこんなに心の再生が必要になったのだろう」と考えだすとやはり上記のような大量消費社会から起こりうるライフスタイルにつながるのでした。モノや情報が溢れかえった現代でそれらにとらわれ過ぎて生活することは、心や身体のエネルギーの循環を滞らせ、それによって大切なことを見失ってしまうのではないか。少しおおげさかも知れませんが、地球レベルでそんな滞りが起こっている時代だと思うのです。
消費があるから私たちは豊かになり、今こうして世の中を見ることができています。その中で、私たちもなんとなく過ごしていくのではなく私たち自身が自然の一部であると気づき、ほんとうに必要な消費社会とはどのような社会なのかを判断していくことが大切ではないでしょうか。
都市を取り巻くさまざまな出来事、常に動く消費の中で生きるFashionというメディア、クローゼットの奥に眠っている思いをスッキリさせ、一人一人がニュートラルになれば新しい世界が始まるのです。 

「TOKYO RECYCLE PROJECTで伝えたいことは個々の物語です」

生活の中で生まれる物語

Let's knockin' on Your closet!  


2005年12月
Masahiro Nakagawa

SHORT VER.